2023/01/19
ウシオ電機株式会社(本社:東京都、代表取締役執行役員社長 内藤 宏治、以下 ウシオ)と共同研究をしている島根大学医学部眼科学講座の谷戸 正樹教授・海津 幸子助教らの研究グループは、Far UV-Cの眼の安全性に関しての動物実験研究を実施し、角膜輪部上皮において、222nmのFar UV-Cは上皮表層にしか到達せず、角膜上皮を構成するすべての細胞の起源である角膜輪部基底領域の幹細胞に到達しないことを確認しましたのでお知らせいたします。これは、角膜上皮のターンオーバーサイクル※が222nm Far UV-Cの影響を受けないこと、および組織深部まで到達する従来のUV照射によって引き起こされる翼状片や結膜腫瘍が、222nm Far UV-Cによって引き起こされる可能性が極めて低いことを示唆しています。なお、これらの成果は2022年11月27日付でPhotochemistry and Photobiology誌にて発表されています。
Safety Evaluation of Far UV-C Irradiation to Epithelial Basal Cells in the Corneal Limbus
207nmや222nmのFar UV-Cは、角膜上皮の幹細胞が存在する角膜輪部基底領域には到達しませんでした。これは、角膜上皮のターンオーバーサイクルがFar UV-Cの影響を受けないこと、および組織深部まで到達する従来のUV照射によって引き起こされる翼状片や結膜腫瘍が、222nm Far UV-Cによって引き起こされる可能性が極めて低いことを示唆しています。
角膜輪部の基底細胞は、角膜上皮を構成するすべての細胞の起源であるため、ターンオーバーサイクルにおいて重要な役割を果たします。この研究では、角膜輪部における紫外(UV)光の深達度を調べ、基底部に存在する幹細胞に対するFar UV-Cの安全性を検討しました(図1)。
図1 ラットの眼の断面図
シクロブタンピリミジンダイマー(DNA損傷マーカー、以下CPD)は、UV照射によりDNAのピリミジン塩基が連続した箇所で生じるため、これをUVの組織深達度の指標とし、CPDに対する免疫染色を行って角膜輪部における局在を観察しました。麻酔下のラットに、600mJ/cm2の207、222、235、254および311nmのピーク波長のUVを照射、また、摘出したブタの角膜に222および254nmのピーク波長の UV-Cを照射したところ、ラット角膜輪部上皮のUV浸透深度は、角膜中央部の上皮と同様に波長に依存していました(図2)。
図2 角膜輪部におけるCPDの局在 –ラット–
311nm UV-Bと254nm UV-Cは上皮の基底部の細胞に到達し、235nmは上皮中間部に到達していました。しかし、207および222nmのFar UV-Cは上皮の最表層の細胞までしか到達しませんでした。同様に、ブタの角膜輪部上皮においても、222nmのFar UV-Cは最表層の細胞にのみ到達しました(図3)。
図3 角膜輪部におけるCPDの局在 –ブタ–
この研究の結果は、Far UV-Cが角膜に対して安全であることを示していますが、実験は麻酔下の動物や摘出した角膜でのみ行われており、今後、さらなる検証や議論が望まれます。
ウシオは222nm紫外線の皮膚や目の急性、慢性障害などに対する安全性の研究・確認を国内外の研究機関と進めています。眼科領域分野においては、引き続き島根大学とさらなる詳細な研究を進めてまいります。また、病院や老人ホーム、食品工場、空港、飛行機、旅客船などでの感染対策、医療機器の展開を見据えた感染予防機器などを視野に商品化を目指し、「光」による安心・安全な社会の実現に貢献していきます。
※ 角膜輪部の奥にある基底層から新しい角膜細胞が作られ(生成)、それが角膜の中央へ広がり、上へと押し上げられ、角膜の表面に出てきます(移動・成長)。それが細かな断片となり剥がれ落ち(排出)、新しい細胞と入れ替わっていきます。この生まれ変わりのサイクルを「ターンオーバーサイクル」と言います。
図4 角膜へのUV侵入深度
島根大学は6学部4研究科を有す総合大学として、大学の機能強化を図りながら、地域や国際社会で活躍する人材の育成、知の拠点としての地方創生という大きな役割を果たし、地域に活き世界で輝く大学として発展を続けています。 2018年には「次世代たたら協創センター」を開設し、金属材料分野において島根県及び関連企業との連携強化のもと、地域産業の振興を担う高度人材の育成と最高水準の研究開発拠点の形成を目指しています。