HOME>開発パートナーインタビュー>感染症研究の立場で取り組む 波長222nm紫外線の殺菌効果と安全性

感染症研究の立場で取り組む
波長222nm紫外線の殺菌効果と安全性

弘前大学大学院医学研究科様

(左から)
弘前大学大学院医学研究科 生体高分子健康科学講座
特任教授 中根 明夫先生
弘前大学大学院医学研究科 附属動物実験施設
助教 成田 浩司先生

 青森県弘前市で医学に関する学術理論及び応用の教授研究から多くの高度な実績をお持ちの弘前大学大学院医学研究科様。同大学院では2016年以来、波長222nm紫外線の殺菌効果や安全性について、ウシオ電機との共同研究を行っています。研究をご担当する中根明夫先生は、感染症がご専門で、微生物研究をはじめ、天然物質の抗菌・抗ウイルス作用、免疫にも研究領域を広げておられます。また共同で研究に従事されている成田浩司先生は、黄色ブドウ球菌のワクチン研究や、現在では紫外線の殺菌効果や安全性の研究に取り組んでいます。共同研究に至った経緯と研究成果、研究者の立場から見た紫外線による感染症対策についてお聞きしました。

患部感染を防ぐために。波長222nm紫外線の殺菌効果研究をスタート

ウシオ電機との共同研究が始まった経緯と研究の全体像を教えて下さい。

(中根先生)

2015年に本学の整形外科とウシオ電機さんが共同研究を行っており、見学に伺った際、興味を持ったことがきっかけで、我々の講座でも2016年から正式に共同研究が開始されました。最初の研究は波長222nm紫外線を照射し、手術中の患部感染を防ぐことが目的でした。

そこでまずは、従来、殺菌用途として使用されているものの、発がん性や皮膚の炎症などの危険もある波長254nm紫外線と、ウシオ電機さんの人体に悪影響がないとされる波長222nm紫外線のカビ・ウイルス・細菌に対する殺菌効果の違いを評価しました。

はじめに紫外線の殺菌メカニズムを教えてください。

(成田先生)

細菌やウイルスなどの病原体はタンパク質や脂質、DNA、RNAなどの核酸から構成されています。DNAやRNAが転写・複製されることで細菌やウイルスは増殖します。

一般的に使用されるアルコールなどの消毒薬は、主に病原体のタンパク質を変性させたり、脂質からなる膜構造を破壊したりすることで消毒効果を発揮します。一方、紫外線は、DNAやRNAに直接作用し、CPD(シクロブタン型ピリミジン2量体)などの核酸の損傷を形成し、殺菌します。そのため、消毒薬と紫外線の殺菌メカニズムは異なります。

ウシオ電機との研究結果から、殺菌効果を持つ紫外線の中でも波長222nmの特徴はありますか?

(成田先生)

大きな特徴としては、100度の熱でも、一般的な消毒薬でも死滅しない芽胞菌に対する殺菌効果です。代表的な芽胞菌として、食中毒の原因とされるセレウス菌や院内感染の原因菌であるクロストリディオイデス・ディフィシルの芽胞に波長222nm紫外線を照射したところ、波長254nm紫外線よりも少ない紫外線量で殺菌効果を確認できました。

また、薬剤耐性菌の一種であり、院内感染の原因菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以降:MRSA)をはじめ、大腸菌、緑膿菌等に関しては、波長254nm紫外線と同程度の殺菌効果が認められました。

※紫外線の殺菌効果は、各種細菌・ウイルスに対して照射された紫外線量をもとに評価。

殺菌効果に加え安全性についても研究されているとお聞きしています。

(成田先生)

波長222nmを照射するエキシマランプからは、わずかに人体に有害な紫外線も含まれ、照射後のマウスには皮膚の表面にDNA損傷が見られました。そこでウシオ電機さんが開発したバンドパスフィルタという波長222nm以外の紫外線をカットする特殊なフィルタをランプに装着して波長222nm紫外線のみを照射する技術「Care222®」を用いたところ、マウスの皮膚表面にDNA損傷は見られませんでした。バンドパスフィルタを使用して、波長222nm紫外線のみを照射すれば安全な殺菌が行えるということが分かりました。

これからも感染症への備えと研究を

コロナ渦を経てウイルス感染症にどのように向き合っていくべきでしょうか。

(中根先生)

新型コロナウイルスは21世紀に入り、SARS、MERS、そして世界中で流行したCOVID-19と3度発生しており、今後4つ目のウイルスが発生する可能性はぬぐい切れません。また、新型インフルエンザも20〜30年周期で発生しており、感染症への警戒を緩めることはできません。

ウイルス感染症は、多くの場合、飛沫やエアロゾルにより体内に吸入されることで拡大します。環境中のウイルスへの一般的な対策のひとつとして換気の徹底が推奨されます。季節や地域によっては難しいケースもありますが、ウイルスは1つ体内に入っただけでは発症しませんから環境中のウイルスを90%減少させるだけでも感染リスクは低減できると考えます。

今後ウシオ電機、Care222®に期待することはありますか?

(成田先生)

波長222nm紫外線の殺菌効果や安全性に関する研究は、ずいぶん蓄積されてきました。一方、殺菌のメカニズムなどは解明されていない部分もあります。ウシオ電機さんには引き続き研究開発に注力をお願いして、より効果的で安全な感染症対策に有用な技術や機器を開発していただきたいと思います。

(中根先生)

社会が持つ紫外線へのイメージは、発がん性など人体に悪影響を与える波長254nmだと思われますが、紫外線といえばCare222®となるまで認知度をあげていただきたいです。Care222®は、人体に悪影響がない紫外線を用いてエアロゾル中のウイルスを不活化させるため、医療機関から家庭まで、そして換気が難しい環境において汎用性が高いので、さまざまな場所で使用されることによって、安全な暮らしができるようになるのではないかと思っています。